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2017年1月14日Column今週の余談

今後のゆく末を考えるとき、モノづくり(製造業)は印刷業界を参考にすべし。

世の中、年を追うごとに変化のスピードが速くなっているように思います。少しはのんびりとした一年を過ごしたいな。と思っている経営者は私だけではないと思うのですが・・・。

モノづくり(製造業)業界では、製造から管理、営業とすべての面でICT、AI、ロボット、IoTといったデジタル化の波が押し寄せます。その意味では、今後が本当の変化の時代に直面することになります。そして私の経験から申し上げたいのは、この変化に率先して対応した企業だけが生き残ることができる。ということです。私が実際に経験したのは、印刷業界のこの25年のデジタル化による衰退の歴史です。印刷業もれっきとした製造業に分類されます。モノづくり業界なのです。

私はもともと、20代のころ某印刷関連会社のサラリーマンでした。普通の方が印刷をイメージするとき、よくテレビで新聞が印刷機で自動的に紙に印刷され裁断・製本される一連のフィルムを見た印象が残っていると思います。印刷機を使って自動的に印刷されるものというイメージです。ですが、実態はまったく違います。かつて(90年代前半まで)の印刷業界には、10以上の専門職種が存在し、それぞれに独立した会社がありました。完全に分業化された製造体制です。あのテレビで見かける印刷シーンは、その最終の工程です。印刷は、その前工程が実に複雑で多岐にわたっており、一社で全行程を内製化している会社なんてほぼゼロです。そして、そのほとんどの中間工程に位置する専門業は、明治時代と変わらないような前近代的な家内手工業でした。まあ、モノづくりに携わっている方なら、どんなモノでも完成品になるまでに、何工程もの製造過程があり、その工程ごとに専門化された会社が存在するのは容易に理解できるでしょう。

その10以上もあった工程が、90年代の僅か数年の内に突然消えてなくなった。まるで超マジックのように・・・。その原因が、デジタル化による印刷の製造革新です。

具体的になくなった工程は、写植・版下・製版という中間工程で、印刷の仕上がり品質に大きく影響を及ぼす極めて重要な工程です。もちろん、それらは専門化され、それぞれに独立した会社として運営されていました。写植とは文字を打ち込む作業です。文字といってもひらがな、カタカナ、英語、漢字に、明朝体・ゴシック体など無数の文字盤を自在に組み合わせて打ち込むので、今のようにノートPCで手軽に打ち込むような訳にはいきません。文字盤にある何万字もの文字の位置を覚え、瞬時に必要な文字を選びひと文字づつ打ち込むのです。一人前になるには最低でも5年程度の修行を積まなければなりません。その写植機は、安いものでも300万円程度。文字盤に至っては、全部の書体を取りそろえるには最低でも1,000万円はかかったはずです。

版下というのは、デザイナーが画いた大まかな図案をもとに、正確な寸法で直線や曲線を書きなぞり、写植屋さんが打ち込んだ写植を細かく切り貼りして清書したものです。

製版とは、まさに印刷をするための版をつくる工程です。いわゆる金型に該当するといえば分かりやすいかもしれません。製版は、版下屋さんがつくった清書された図版とデザイナーがこまかく色指定した指図書をもとに、まずは版下を撮影してフィルム化します。その後、マスキングという手法で現像フィルムを組み合わせたり切り貼りしたりと合成をします。江戸時代の北斎や写楽が画いた浮世絵の版画を思い描くと分かりやすいと思うのですが、色の違いによってそれぞれ別々の版をつくらなければなりません。実際には、黒・青(シアン)・赤(マゼンタ)・黄(イエロー)という4原色を使うことでカラー化されますので、4枚のフィルムが必要になります。そのフィルムそれぞれが、同じ寸法で、しかも色と色の境目がキチンと揃わないといけません。よく、顔の色をもっと鮮やかに。とか、服の色をブルーからグリーンに変えるなどの特殊な技は、この製版という工程の中のさらに細分化されたレタッチという専門家が行います。ちなみに製版会社の作業場は、フィルムを扱いますので、当然ながら太陽光を遮断した暗い部屋です。もっと昔の1960年代までは、すべての部屋がわずかな赤色電灯の赤暗い暗室の状態だったようです。

印刷工程は、書き出すと一冊の本になるくらい長くなりますのでこのくらいにして、本題に戻ります。

印刷のデジタル化は、1993年ごろから徐々に普及しだしました。そして、1997年からのインターネットの本格的な普及を契機に、一気にデジタル化が進みました。その結果、先にあげた写植・版下・製版という職業そのものが世の中から消滅しました。まるで神隠しにでもあったようにです。当然ながら全国で数万人の雇用が奪われました。それまで苦労して覚え一人前になり、専門職としてプライドをもって仕事をしていた職人さんの職そのものが無くなったのです。もちろん、会社もろともです。

そのとき、少なくとも1993年あたりでデジタル化を予見し、積極的にインターネット化とデジタル化を進めたデザイン制作会社や印刷会社は生き残って業績を拡大させました。しかし、立ち後れた会社は業績を悪化させ倒産していきました。ここが大事なのですが、デジタル化に対応する時期が、僅か1~2年の差で運命が分かれたのです。

印刷会社は、その後も情報のネット化の波にならされて苦境が続いています。おそらく、いずれ早い時期に市場規模は半分に縮小するでしょう。つまり印刷会社そのものが、少なくとも半分は消えてなくなるでしょう。

その奥にある要因は、各々の会社の経営者の事業に対する先見の明と判断力の有る無しです。

印刷業界でも変わらずに成長している企業は「印刷物を作るのではなく、情報を加工し発信する仕事だ」と考えており、常に情報を素早く便利に発信できる方へシフトさせています。一方、衰退し倒産を余儀なくなれた企業は「紙に文字や写真などの情報を印刷する仕事」という考えから離れられなかったようです。

※余談ですが、デジタル化にはあえて進まずに、昔ながらのアナログ製版を続けている会社もあります。おもしろいもので、その会社は、すごく流行っています。24時間体制で作業していますが、それでも間に合わないくらい忙しいそうです。何故かと言いますと、昔のアナログ時代の本などの印刷物を復刻したい会社が全国的には多くようです。そして、再版印刷するには、アナログ製版が必須です。ところがアナログの製版会社は、そこしかないので、必然として仕事が集中しているのです。この会社の社長さんに聞いたのですが「デジタル化が進んだころは、自分たちも対応しようとして過度の投資をしたが、対応が遅かったようで収益的には苦労した。ところが、ライバル会社がどんどん倒産して消えてなくなる過程で、アナログ製版をしている当社に徐々にアナログ製版の仕事が舞い込んできた。それも相手さんからお願いされるんです。だから、相見積もりなんてのもない。こちらが出した見積書の通りの金額で取引が成立する。それが収益を支え続けている。アナログ製版設備を廃棄せずに残した甲斐があった」とのこと。要は、需要と供給の関係で、需要が大きく上回っているのです。こういう企業もありますので、必ずしもデジタル化に進む必要はありませんが、いずれにしてもデジタル化がもたらす社会・業界・企業の変化を読み取って、これからの戦略を考え決断する必要があるのは間違いありません。

あらためて今、モノづくり企業では、第4次産業革命といえる新たなAIロボットやIoTなどのデジタル革命が目の前に訪れています。それをチャンスとみるか、脅威と捉えるか・・・。

 

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